
『心理統計学の基礎』 |
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テキストに指定したこの本は良い本です。が、日本のテキストの常として、十分なページ数が与えられずに書いていますので、説明はどうしても省略的になっています。ですから分かり難い記述はところどころ出てきます。本来、統計学の体系をこの小さな本に押し込めるのは無理な面があります。
そこで、分かり難い記載に出会ったら、各自、調べてみることが必要になると思います。統計の別の参考書や辞書類を使ってください。手軽なところでは、ネット上で他大学の統計講義のプリント、説明を探すこともできます。ネットで気軽に調べるというのは必ずしも勧められませんが、それでも何も調べないよりはよいです。この授業の説明とはニュアンスが異なる記述に出会うこともあるかも知れません。が、担当教員の分野などによって、細かい点では強調することが異なるのは、普通にあることです。
このページの以下では、テキストの中身について大まかに解説しておきます。参考にしてください。
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第1章 心理学研究と統計 |
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この章は読めば問題なく分かる内容と思います。読んで理解してください。
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第2章 分布の記述的指標とその性質 |
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この章は基礎統計量について解説しています。標本における統計量のことです。多少、難しいことも書いてあります。
1 分布の代表値:狽ェ苦手、という人もいるでしょうが、このくらいはクリアしてください。「合成変数」というのが分かり難いかも知れません。しかし実は、心理学や社会学で使う指標の多くは合成変数です。分からなければスキップしてもよいですが、大まかなところは理解する必要があります。
2 分布の散布度:この個所も基本的な箇所で、全部理解することは要請されます。ただし、同様に「合成変数の分散」が分かり難いかも知れません。
3 変数の線形変換と標準化:なれない人にはこの、線形変換が分かり難いかも知れません。授業で取り上げることにしますが、実際に計算してみると分かってきます。標準化は、第4章の3で正規分布を理解するのにも必要になります。
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第3章 相関係数の把握と回帰分析 |
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この章は重要な章です。この章から本格的な話が始まると思ってよいです。
授業をする立場からいうと、この章の書き方は受講生には分かり難いと思います。「相関係数」と「回帰分析」は深い関係にありますが、説明上は分けた方がよいからです。
1 共分散と相関係数: 当面、相関係数を理解するのが重要ですから、まずこの個所を読んでください。その後の箇所(2−6)は、授業の後半で「重回帰分析」を扱う時に読んでもよいです。
2 回帰直線のあてはめ: ここから「単回帰分析」の説明が始まっています。単回帰分析は通常、統計学入門書の最後の方で出てくることなので、ここで理解するのは少し無理があります。
3 回帰分析における予測値と残差の性質: 後で読んでください。重要なことが書いてあります。
4 相関係数と回帰係数の性質の違い: この個所もよく書けています。後で十分理解するようにしてください。
5 相関と共変と因果 この記載は、統計に係る、行動科学研究法のような話です。ある種マニアック(心理学者以外にはピンとこないかもしれない)ですが、重要なことが、軽く書いてあります。
6 測定の妥当性と信頼性 この箇所は「社会心理学研究法」の上では、重要な事項です。普通、この話は統計学のテキストには出てきません。が、心理学、社会学では基本事項ですので、押さえておくことが望ましいです。いろんな試験に出題される事項です。
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第4章 確率モデルと標本分布 |
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統計学は確率論を基礎とします。確率論との接点を提供しているのがこの章であり、この章は1つのヤマ場と言えます。
1 基本的な考え方: 10月19日の授業で説明したのが、この個所の記載です。
2 比率の標本分布の導出: 数式はフォローできなくても構いませんが、基本的な考え方についてはフォローしておいてください。
3 正規分布モデルと平均の標本分布: この章では、この個所を理解するのが最も重要です。正規分布表の見方をここで理解するとよいです。また、正規分布表の正規分布は標準正規分布であること、標準正規分布はもとの変数を標準化したときに得られるものであることが、重要なポイントです。
4 2変数正規分布モデルと相関係数・回帰係数の標本分布: この個所は重回帰分析を勉強したときに、改めて目を通せばよいです。なお相関係数を統計量として扱う際には「フィッシャーのz変換」なるものがあることは、頭の片隅に入れておいてください。
5 確率モデルの適用に関する諸問題: 必須事項ではありません。目を通しておいてくれれば結構です。
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第5章 推定と検定の考え方 |
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第4章に引き続き、この第5章が統計学の基本にあたる部分です。このテキストの特色は、この第5章を「相関係数を中心に」書いていること、つまり相関係数の推定と検定を例に、推定と検定の考えを説明していることです。
この特色は1つの良いアイディアではあります。が、教える側からすると欠点にもなります。通常のテキストは平均値の推定と検定を例にしていますので、他の参考書との対照がし難いという事情があります。実際、第5章の応用であるべき次の第6章では、平均値の推定と検定を扱っています。
授業(10/27)では、この第5章に関する部分を平均値の推定と検定に置き換えて説明しようと思います。ただし、この第4章も目を通しておくことが好ましいです。
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第6章 平均値差と関連に関する推測 |
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この授業で「実習」が入るのは、この章の内容からになります。たぶん、10/27の後半では、この章の5を使った実例で解説することになると思います。
1 独立な2群の平均値差の検定: この内容が検定の「原型」と言えます。しっかり把握しておいてください。
2 平均値差および効果量の区間推定: この内容が推定の「原型」です。
3 対応ある2群の平均値差の検定と推定: 同様です。
4 2群の比率の差の検定: 上記1の応用といえます。
5 カテゴリ変数間の関連の分析: いわゆるクロス表の分析の基礎になります。
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第7章 線形モデルの基礎 |
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この授業が想定する多変量解析の重要な部分は「線形モデル」と表現されます。この章の記載もよくできていると感心します。けれど、この授業の受講者には難しいと映るでしょうね。特に、冒頭からベクトル表現になっているのが、入り難いかも知れません(本来はベクトル表現どころか、行列表現をすべきなのですが)。
この章の内容を、講義としてじっくりやることは、講義として理想と思います。ほんと。しかし、授業ではややショートカットした説明をすることになると思います。ただし参考書として、この章に目を通すことをお勧めします。授業を聞いて分からなければこの章を読んでください(授業の方が分かりやすいと思いますけど)。 |

第8章 偏相関と重回帰分析 |
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この授業の中心は重回帰分析であり、その意味でこの章が最も重要な章であると言えます。すべての内容について重要ですから、目を通しておいてください。
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第9章 実験デザインと分散分析 |
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この章は、重回帰分析とともに線形モデルの中心である分散分析を解説しています。授業でも分散分析について触れますが、この章を全部網羅する時間は、少なくとも今年度はありません。従って、基本事項だけについて扱う予定です。
1 実験デザインと要因: 理解することが必須です。
2 完全無作為1要因デザイン: 必須です。
3 多重比較の考え方: 授業で触れます。
4 完全無作為2要因デザイン: 授業ではlここまで触れます。
5 対応のある1要因デザイン: 実験的研究に興味のある方は、目を通すことが望ましいです。
6 共分散分析: 理解することが望ましいですが、スキップしてもよいです。
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第10章 因子分析と共構造分析分散 |
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このテキストを使う理由の1つは、この章が入っていることでした。ただこの授業では扱えない部分も含んでいますので、前半部だけを理解すればよいと考えます。つぎのうち、1〜3は必須と考えてください。余裕があれば4、5に目を通してください。
1 因子分析の考え方とモデル
2 因子分析のしくみと因子の解釈
3 因子の回転
4 共分散構造と母数の推定
5 共分散構造分析による潜在変数間の関係の分析
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授業の進度とテキスト |
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授業の進度に応じてこのテキストをどのように読むべきかを書いておきます。
1.前半:この授業の前半では「多変量解析以前」のことに触れます。11月の中頃まではその状態で授業をすることになると思います。次に目を通しておくことをお願いします。
基礎事項:1、2章、3章の1、
10/27以後:第4章の1〜3、第6章(可能なら第5章)
2.分散分析:第9章の1〜4
3.因子分析とクラスタ分析:第10章の1〜3、なお、クラスタ分析はテキストに含まれていませんので、講義で説明します。必要なら参考書で調べてください。
4.重回帰分析:第3章の2以後、第8章(可能なら第7章)
5.線形対数モデル:テキストには含まれていません。この事項まで行かないかも知れませんが、行けば、その都度参考書をお伝えします。
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