社会心理学概説A講義プリント

 

                                                                                                                                                2001.01.15

 

D.群集過程(続き)

 

D.4.パニック(panic):逃避的な群集行動

 

 パニックの問題

  1.個人の非合理的な行動(非計画的、衝動的行動)

  2.混雑現象による問題の増幅

 

 パニックを生じさせる要因

  1.合理的要因

   逃げ遅れるとひどいことになるほど混乱が生じやすい。

   囚人のジレンマのような利得構造

  2.情動的要因

   恐怖によって、融通性の低下、退行、合理的な思考の欠如が生じる。

 

Mintz(1951) の実験

  15〜21人の被験者集団の実験。

  被験者は、ひもを早く瓶から抜くことを求められる。

  しかし、一度に一人しか出られない。

 結果

  1.報酬構造が混雑を生じさせる。

    ・ 抜け出すと報酬が得られる場合、混雑が生じやすい。

    ・ 瓶に水が入る。cone がぬれると罰金が科される。

     → 混雑がひどくなる。

  2.被験者間の話合いを導入すると、混雑は低下する。

  3.被験者に協力的な「構え」を持たせる(集団の得点を上げるように教示)。

    → 混雑は著しく低下する。

 

Mintz(1951) の実験への批判

  現実性があるか?

  罰金が低額である。

 

 

Kelley (1965)の実験

  Sは仕切りで隔離される。

 装置 − Sの位置と他のSsの位置をライトが示す。

 時間内に逃げられなければ電気ショックがある。

 スイッチを押す = 逃避の試み。しかし一度に一人しか逃げられない。

 

実験 1

 条件:脅威    − 高/中/低(ショック無し)

       集団規模    − 4/5/6/7人

        性別      − 男/女

 Sには2つの反応が可能 = 逃避の試み / 待つ。

 与えられた時間

        4人集団−24秒。5人−30秒。6人−36秒。7人−42秒。

 タイマー:赤い水がある瓶から別の瓶に流れる。

 

 結果

   1.逃避に成功する割合: 男性 > 女性。(p < .025)

 

        2.大集団ほど避難に失敗する。

                        4人    5人    6人    7人

        成功率             77%                   57%                   31%                   49%[例外]

        3.脅威が高いほど成功率が低い。

 

 7人集団で成功率が高かった理由 − 7人集団では、瓶の水が多いため、

   時間が十分あると思われたかも知れない。

 

実験 2

    時間の経過を音で示す。

        全てのSsに実験1の中脅威を使う。

        条件: 集団規模[4〜7人]×性別

 結果:逃避の成功率は、

        1.男性 > 女性。

        2.4、5人集団 > 6、7人集団。

        成功率  4人    5人    6人    7人

              48%    50%     22%     21%

 

実験 3:7人集団で実験。

 条件:性別

        Sに可能な反応の数

          2反応条件:待つ、避難の試み。

          3反応条件:+ 「待つつもり」 − 他のSsにも分かる。

 結果:避難の成功率は、

            1.男女差無し。

       2.3反応条件 > 2反応条件。

 

全体の結論

 1.脅威の大きさ   → 混雑を生む。[Mintz(1951) と同じ。]

 2.集団規模が大きい →  混雑を生む。

 3.信頼感を与える反応の存在 → 混雑を緩和。

 

 

 

D.5.流言(rumor)

急速に生じる、検証困難な情報の伝達

「デマ」との相違: デマゴギー、意図的な扇動

 

D.5.1.発生原因

 

・オルポートとポストマン[Allport & Postman, 1947

 流言の強度 = f(問題への人々の関心×問題の曖昧さ)

(速さ、広がり)                       

・ロスノウ[Rosnow,

 ・信じやすさ ←→ 批判的感受性

 ・情報に接したときの心理状態:恐怖、不安

 

 

Morris (1976)の実験:恐怖のストレスの下で情報追求行動が生じやすい。

 4〜6名の被験者の集団が「性的態度」に関する実験に参加する。

   1.恐怖条件:部屋に電気ショックの機械が置いてある。

         「電気ショックと性的刺激に対する生理的反応の研究」をす

         ると被験者に言う。

   2.不安条件:部屋に避妊具、ポルノ、などが置いてある。

   3.統制条件:どんな研究をするかは言わない。

 待ち時間中の被験者の行動を観察する。

 

 結果:恐怖条件で、

    ・言語的な情報追求行動が多い。

     (何が起こるかを他者にたずねる、など。)

    ・集団凝集性が高まる。

 

 

Jaeger (1980)の実験

Ss:大学の授業に出席している学生

手続き:

            ・性格検査により、事前に出席者の不安を測定しておく。

            ・授業中に教授(高権威条件)/学生(低権威条件)が次のように発言

            「マリファナを吸っていた学生がいるという噂があった。事情を知っている者はいるか?」

            ・ある学生(サクラ)が次のように答える。

              高信用条件:「あり得る。」

              低信用条件:「デタラメな話だ。」

            ・1週間後に、マリファナの噂を人に話したかどうかを調査

結果

1.噂を他人に伝える傾向は          高不安者 > 低不安者

2. 噂を他人に伝える傾向は        高信用条件 > 低信用条件

3.高権威条件(情報源の権威が高い)では、Sの不安にかかわらず噂の伝達がおきる。

  低権威条件では、高不安者が噂を伝達しやすい。

 


D.5.2.流言の伝播過程

 

Allport & Postman(1947)の実験:流言の伝播過程で情報は変容する。

 実験刺激 − 次頁、左図

 図を見せられた人が、見ていない人に図の内容を伝える。

 伝えられた人は別の人(図を見ていない)に伝える。・・・

 結果:次の3つの傾向が観察された。

 1.平均化(leveling):簡略化される。思い出したり伝えるのが容易になる。

 2.強調化(sharpening):特定の部分が強調される。(平均化と同時進行)

   平均化と強調化の例−「果物を盗んだ少年がいて、警官が後を追っている。」

 3.同化(assimilation):伝えられる内容が伝える人の態度・関心・期待に一致するようになる。

   例−女性は店のドレスを伝えることが多い。

 

情報は人々のスキーマ[図式]に従って変容する。 (記憶に対するスキーマの影響)

 

Bartlett(1932)の実験:図形や絵文字をリレー式に再生させる。 次頁、右図

 人は既存のスキーマに当てはめて図形を記憶しようとする。

 そのため、伝えられる図形は、伝播の過程で分かりやすいスキーマに従ったものとなる。

 

 

 

 

 

D.6.混み合い(crowding)

 

D.6.1.空間行動(spatial behavior)   〜 個人的空間(personal space)となわばり行動(territoriality)

 

☆ personal space 説 Sommer ら。

  (proxemics, Hall

  personal space − 他者の侵入が脅威となる、個人の回りの空間

   接近 → 不快。脅威・怒りを感じる。

Sommer らの実験−サクラが接近するほど、相手はその場を早く立ち去る。

攻撃的な人ほど、広い個人的空間を要する(特に背後)。Kinzel(1970)

 

☆ なわばり行動

 3種類のなわばり(Altman,1975)

                第1次的なわばり  例:自宅

            第2次的なわばり  例:教室の自分の席

            公的なわばり    例:気に入った公園

  安心感、統制感覚は第1次的なわばりで最も高く、公的なわばりで最も低い。

 

Home Court Advantage − スポーツ、交渉

(ニワトリ、魚も同様 − the prior residence 効果)

家庭内のなわばり − 夫のなわばり=居間、ガレージ、妻のなわばり=台所

 

 

D.6.2.混み合い(crowding) → 空間行動上の障害

 

☆ 動物のデータ

 込み合った状況下のネズミ → behavioral sink (Calhoun,1962)

                ・不可解な攻撃行動、あるいは、

            ・消極的になって閉じこもる(withdrawal)

[例]

 ・母親ネズミが子供に注意しなくなる。→子供の死亡率、大

 ・通過儀礼を経ずに性的行動に走る、もしくは、性的行動から全く遠ざかる。

 ・ストレス症状

 ・争いが高まる。(Southwick, 1955)

 

☆ 人間の場合

            混み合い → 目標の阻害  → 混み合いによる症状

          ・ストレス

          ・無力感

          ・引きこもり(withdrawal)

      他者との接触を回避

      例:eye-contact を避ける。

          ・攻撃

 

☆ 課題達成への影響

Freedman (1971,72)

 混み合いは知的課題(例:文字のリストから単語を作る)の達成を阻害しない。

 → 混み合い自体はストレス因(stressor)にはならない。

 

しかし、ストレス下で達成の阻害が生じる課題を使った実験は、混み合いがストレス因になることを示す。

 Paulus(1976):混み合い下で迷路課題の達成が低下。

 Evans(1975):混み合い下では2次的課題(テープの話に注意する)達成が低下。

など。

 

達成の阻害は、他者との接触を要する課題で大きくなる。

 (Heller ら、1977

 

☆ 利他的行動への影響

 

Steblay(1987):35の援助研究のメタ分析。援助行動は小都市で生じやすい。

Bickman (1973):込み合ったところではロスト・レターを投函する人が少ない。

Cohen & Spacapan(1978):コンタクト・レンズ探しへの援助。

  込み合ったショッピング・モールでは生じにくい。

など。

 

 混み合い → 注意の過重負荷 → 他者への非関与

 

☆ 攻撃:混み合いは攻撃と怒りの情動を高める。

 

喧嘩が生じやすくなる。

Booth & Edwards(1975):トロントの白人世帯の調査

・主観的に世帯が狭いと愛情が低下する。

・主観的に世帯が狭いと夫婦喧嘩が多くなる。

・部屋数が少ないと子供がぶたれやすい。

 

攻撃か閉じこもりか?

 ・資源(オモチャなど)の希少性 → 攻撃

 ・男性:混み合いによって攻撃しやすい。

 

☆ 生理的反応

Middlemist (1976):込み合った男子トイレでは、おしっこの出が遅れる。

  おしっこ:ストレスによる生理的喚起で、出が遅れる。

  血圧、心拍数も同様

 

Levy & Herzog(1974):込み合った地区では心臓病での死亡率が高い。

Paulus (1978):監獄の研究。監獄が込み合っている時期には、循環器系の疾病による死亡率が高い。

 

☆ 子供の研究

Rodin(1976):込み合った住宅に住む子供は、根気がない。

      (環境に対する統制感がない。学習性無気力)

 

☆ 媒介変数としての統制感覚

混み合いの原因を自分で除去できる、という感覚(統制感覚)

   → 混み合いの負の効果を低下させる。

Rodin (1978):エレヴェータの混み合い。

  スイッチのそばにいる(いつでも出られる)Sは、混み合い感が低い。

 

 

D.6.3.生態学的心理学(Ecological Psychology)

  〜 the theory of manning

Baker, R.G. & Gump, P.V. (1964)  Big school, small school.  Stanford, CA: Stanford Univ. Press.

Wicker, A.W. (1979)  An introduction to ecological psychology.  Belmont, CA: Wadsworth.

 

行動場面(behavior settings) 〜 イヴェント、定常的社会活動の場、など。

 ・具体的に時間(帯)・場所を指定できる。

 ・2つの構成要素 (1) 人、(2) 器材(例:椅子、タイプライター)

 ・プログラムがある−相互作用の流れを規定。

 ・構成要素間の調和(synomorphy)

 ・地位の体系 例:代表者、客、・・・

 ・人員が代替可能

 ・場面の自己制御的性格

 など。

 例:○○ミーティング、運動競技会、カウンセリング室

 

Barker らの理論

  人員不足(undermanning)の効果

   1.場面のプログラムを実行する個人の活動がより活発になる。

   2.個人は責任ある地位を引き受ける。

   3.場面にとっての重要性を個人が自覚する。

 

Barker & Gump(1964):カンサス州の高校の調査

 ・生徒数の多い高校では、生徒数ほどには行動場面が多くならない。

 ・小さい高校では生徒の課外活動への参加が活発になる。

 

   ─────────────────────────────

    参加の測度               小さい高校平均             大きい高校平均

   ─────────────────────────────

    参加場面総数                                        19.4                           18.4

    参加場面の種類                       6.5                          5.4

    責任ある地位にある場面数             8.7                          3.5

    中心的地位にある場面数               3.6                          0.6

        責任ある地位の種類               3.7                          1.6

   ─────────────────────────────

 

                                                                                                                                                        [以上]