社会心理学特殊講義: 講義メモ
2000年 6月1日(木曜)
高木英至
2.3 集団過程
2.3.1 集団討議
2.3.1.1 背景
・集団討議の結果は成員の初期の意見分布から確率的に予測できる。(下図)
・ただし「寛容効果」
☆ 隠されたプロフィール(hidden profile)
TABLE 1:成員X、Y、Z。 選択肢A、B。
・Aに有利な情報は7個 − うち1個(a1)だけが全員に共有されている。
・Bに有利な情報は4個 − うち1個(b1)だけが全員に共有されている。
→ この場合、議論前も議論後も、全員がAを選ぶだろう。
TABLE 2: 隠されたプロフィール
・Aに有利な情報は7個 − うち1個(a1)だけが全員に共有されている。
・Bに有利な情報は4個 − そのすべてが全員に共有されている。
→ 議論前はBが有利。しかし討議によって情報が共有化されればBが選ばれるはず。
が、集団討議によっても、隠されたプロフィールは必ずしも明らかにならない。
Stasser & Titus(1985) の実験
・4人集団のSs
・3人の候補者(A、B、C)から適任者(学生自治会長)を選ぶ。
・Aの長所が多い。
・3条件(下表)
Shared:すべての条件が共有されている。
Unshared/Concensus, Unshared/Conflict:隠されたプロフィール条件
結果:下表
→ 集団討議によっても、隠されたプロフィールは克服されない。
なぜか?
1.共有された情報が討議に出やすい。
2.成員は現在の自分の考えを支持する情報を再生しやすい。
2.3.1.2 Stasser(1988) のシミュレーション(DISCUSS モデル)
☆モデルの構成
(1)入力
(1・1)課題パラメータ
討議の選択肢
各選択肢の情報項目数
情報項目の valence
成員間の valence の分散
(1・2)討議パラメータ
集団サイズ
参加度
討議集団成員の参加度はランクづけられる。
Pi:i 番目のランクの成員の参加確率、r:参加パラメータ、n:集団サイズ
Pi = ri/Σri、 i = 1、2、・・・、n.
rが小さいほどトップランクの成員が討議を支配する。
決定ルール:決定に必要な最低成員数
Advocacy:成員が自己の現在の選好を発言に反映させる程度
(Advocacy / Nonadvocacy)
Norm:ある項目への支持的発言によって項目の valence の成員間の差が縮小する程度
(Norm / Nonnorm)
(1・3)選択サブモデル:選択肢の評価のモデル
EA:選択肢Aへの(ある成員の)評価、vj:成員がAについて再生したj番目の情報項目のvalence
m:その成員が再生した情報項目数
加算サブモデル EA = Σvj
平均サブモデル EA = Σvj/m
(1・4)討議前の情報分布
(2)シミュレーション
(2・1)討議前局面
情報項目の再生:項目数(情報負荷、N)が大きいほどある項目の再生確率(Pr)は低い。
Pr = a/N +b (a、b:正の定数)
選択肢の評価:再生および選択サブモデルで決める。
(2・2)討議局面(期間ごとに)
発言者:参加の確率による。
何(どの情報項目)を話すか? − 成員の再生による。
発言→成員はその項目を再生→評価の変化
(Norm の場合、聞き手の vj は発言者の vj の方向に動く。)
(2・3)討議終了
一致(Consensus):決定ルールが充たされたとき
行き詰まり(Stalemate):"no decision"
(3)出力
討議前の選好分布
集団決定分布
など
☆ シミュレーションの実施
(1)パラメータ設定:過去の実験結果から判断し、以下を当てはめる。
valence:選択肢Aの8つの正の項目のうち4つは+2、残り4つは+1.5
負の項目は−1
valence の分散 = 1
参加パラメータ r = 0.75
(2)2(Advocacy / Nonadvocacy)×2(Norm / Nonnorm)×3(Shared / Unshared-Consensus / Unshared Conflict)
☆ 結果
・データ(TABLE 4)との当てはまりが良かったのは Nonadvocacy-Norm モデルと Advocacy-Norm モデル
→ Norm の要因がなしに情報交換だけでは、データのような Consensus は得られない。
・TABLE 7:Nonadvocacy-Norm モデルと Advocacy-Norm モデルに基づく予測
☆ 追加のシミュレーション:隠されたプロフィール下での少数派の効果
多数派サイズ:4/8/12
少数派サイズ:0/1/多数派の4分の1
結果:少数派は隠されたプロフィールの発見に貢献する(TABLE 8 − 討議でAが選ばれる比率)。
Nonadvocacy-Norm モデルで特に少数派の効果は大きい。
参考文献
Baron, R.S., Kerr, N. & Miller, N. (1992) Group process, group decision, group action. Buckingham: Open Univ. Press.
Kerr, H.L. & MacCoun, R.J. (1985). The effect of jury size and polling method on the process and product of jury deliberations. Journal of Personality and Social Psychology, 48, 349-363.
Larson, Jr., J.R. (1997). Modeling the every entry of shared and unshared information into group discussion: A review and BASIC language computer program. Small Group Research, 28, 454-479.
Stasser, G. (1988). Computer simulationj as a research tool: The DISCUSS model of group decision making. Journal of Experimental Social Psychology, 24, 393-422.
Stasser, G. & Titus, W. (1985). Pooling of unshared information in group decision making: Biased information sampling during discussion. Journal of Personality and Social Psychology, 48, 1476-1478.
2.3.2 コミュニケーションネットワーク(CN)
2.3.2.1 CN実験研究
☆ コミュニケーション・ネットワーク研究が扱う状況
1.位置が異なる成員が別々の情報を持つ。
2.情報を総合して解を出す課題に取り組む。
3.情報はネットワークを通して伝達される。
☆ ネットワークの型と課題
・主なネットワークの型: 車輪型(Wheel)、鎖型(Chain)、Y型、円型(Circle)、
完全連結型(Completely Connected, ComCon)
・ネットワークの中心性
・ネットワーク上の位置:中心的/周辺的
・課題: 単純 − 共通シンボル課題
複雑 − 算術計算課題、など
☆ 主要な実験的知見(Shaw, 1964 など)
@中心性の高いCN(e.g., Wheel 型)で成員間の階層的な役割分化が生じやすい。
A特に「リーダー」は中心的位置で出現しやすい。
B中心性の高いCNは単純な課題で、中心性の低いCNは困難な課題で、効率的となる。
C成員の満足度はCNの型や位置に依存する。中心性の高いCNの成員や周辺的位置の成員は満足度が低い。
2.3.2.2 CNのシミュレーションモデル(高木, 1999)
☆ 問題 − CN実験の知見は被験者の特有の心理過程の結果か、構造的要因の結果か?
☆ 時間は短い単位時間(ステップ)ごとに離散的に推移
☆ 環境(CNと課題)要因
(1)CN: N×Nの2値(01)行列 N N = (nij) 。
・位置 i から位置 j への情報経路が開いているとき nij = 1
・閉じているとき nij = 0 である(ただし nij = 0, i=j)。
・
N(仮想被験者の数)とCNの型 − 自由に変更できる。
・双方向的情報経路からなるCN(
N は対称行列)だけを考える。
(2)課題
形式的な共通性
1.各被験者が初期状態で固有の(他の被験者が持たない)課題情報を持つ。
2.全員の課題情報を集めてはじめて課題の解が出せる。
3.全員が実験者に解を報告した時点で課題遂行が完了したと判断する。(1セッションが終了)
解決困難度: すべての情報を集めた仮想被験者が1人で解決するのに要する期待時間
ガンマ分布(反応時間の確率分布)にしたがうと仮定
☆ 仮想被験者の課題行動
(1)作業
・仮想被験者は選択局面と遂行局面に交互に入る。
選択局面 − 遂行すべき作業がある限り作業を1つ選ぶ。
遂行局面 − 作業を遂行
・選択できる作業は次の4種類だけ
@情報伝達 自分の課題情報もしくは他者から受け取った課題情報を、選択した1人の他者に送る。
A解答 まだ解を得ておらず、すべての課題情報を保有した状態で選択局面にある仮想被験者は確率 P(S) で解答を選択する。解答を選択すると次ステップ以降の遂行局面で仮想被験者は解答に専念する。
B達成報告 自分で解を出すか他者から解を受信することによって解を得た仮想実験者は、次の選択局面で達成報告を選び、続く遂行局面で達成を実験者に報告する。所要時間は1ステップ。
C解伝達 達成報告の後は優先的に解伝達に移る。所要時間は1ステップとする。
(2)仮想被験者の「構え」
次の3状態があると仮定
状態1:自分ではBの解答を放棄し、課題情報の伝達@に専念する。解は他者に依存する。(受け身)
状態2:解答と情報送信の両方を行う。(デフォールト)
状態3:解答(と解伝達)に専門化し作業@を行わない。(中心的役割への構え)
・同一セッション中は各仮想被験者の構え状態は変化しない
・最初のセッションでは全員がデフォールトの状態2
・セッション間での構えの変化
1.状態2の仮想被験者
a.直前のセッションで自分で解を出さず解を他者に依存したなら確率
P(1|2) で状態1に移る。
b.直前のセッションで自ら解を求め他者に解を依存しなければ、確率
P(3|2) で状態3に移る。
2.状態1ないし3にいる仮想被験者:直前セッションでの集団の課題遂行がまずければ現在の作業配置を変更しようとする。
a.前回のセッションで状態1にあり、かつ課題遂行時間(ステップ数)が前々回より N(2|1)以上多ければ状態2に戻る。
b.前回のセッションで状態3にあり、かつ課題遂行時間(ステップ数)が前々回より N(2|3)以上多ければ状態2に戻る。
3.状態1ないし3であるとき、もし現セッションでのステップ数が前セッションのステップ数をこえたならば、各ステップで、仮想被験者は確率 P(R) で現在凍結している作業(状態1ならA、状態3なら@)を選択可能と再定義する(次のセッションで構えは状態2に復帰)。
☆ パラメータ
(1)行動パラメータ: P(S)、P(R)、P(1|2)、P(3|2)、N(2|1) 、 N(2|3)
P(S)、P(1|2)、 P(3|2) の値が高い → 集権的配列への個人レヴェルでの誘発性
(2)環境パラメータ
1.集団サイズ = 5
2.CNの型 = Wheel、 Chain、 Y、 Circle、 ComCon
3.情報伝達時間 = メッセージを書くステップ数 + メッセージ送信自体の時間
メッセージ送信自体の時間 = 最小ステップ数の 1
メッセージを書く時間 = 課題情報数に比例
4.解答時間 = ガンマ分布乱数値
(3)解答時間(課題の困難度)の操作 → 低困難度条件/中困難度条件/高困難度条件
2.3.2.3 シミュレーション結果
(1)最適行動パタン
CNはいかなる行動を被験者に促すか?
CN型別に、仮想被験者の最適行動パタンを調べる。
最適 = 課題解決時間の最小化
遺伝的アルゴリズムの適用
結果(Fig. 1)
a. P(S) の値は困難度やCN型にかかわらず1に近い。
→ 課題情報が集まったときは早期に解答に入るのが合理的
b.役割分化への構えを示すパラメータ[ P(1|2) と P(3|2]がCNの型によって異なったパタンを示す。
中心性が高い Wheel 型 − 0.5 前後
中心性が低い Circle、ComCon − ほとんど 0.0
中心性が中間的な Chain と Y は両者の中間
→ 中心性が低いCNに比べ、中心性が高い Wheel では、役割分化への課題要請が構造的に強い。
(2)課題解決時間
3種類のパラメータでCN型を比較
・デフォールト:P(1|2) = P(3|2) = 0.0 とおく。P(S) =
0.93[(1)の中困難度条件の全体平均]
(役割分化への構えなし)
・中困難度条件の Circle での最適値
・中困難度条件の Wheel での最適値
結果:Fig.3(困難度条件ごとの平均を1としたときの相対時間)
・中心性が高い Wheel では課題が困難なほど相対解決時間は長くなる。
・中心性が高い Circle、ComCon では逆。
ある程度、主要な知見のB(2.3.2.1)と符号
(3)役割分化
事後的な4つの役割
自分で解を出す 出さない
他者に解を送る KeyPerson Relayer
送らない LoneSolver EndPerson
2種類のパラメータ値
デフォールト値(役割分化への構えなし)
Wheel 最適値(役割分化への構えが強い)
結果 Fig.4:CN型別の役割分布
Fig.5a:KeyPerson の出現位置
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CN型 デフォールト値 Wheel 最適値
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Wheel どちらでも、1 KeyPerson 対 4 EndPersons(1段階層)
Chain EndPerson - Relayer - Keyperson - Relayer - EndPerson(2段階層)
Y LoneS.が増える 中心に KeyPerson
Circle 複数解答者体制 Chain と同じ2段階層
ComCon 複数解答者体制 Wheel と同じ1段階層
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
・過去の役割構造の記述は上の表の範囲内にある。
・KeyPerson の出現位置の予測は実測値と符合する。
参考文献
Bavelas, A. (1950) Communication patterns in task oriented groups. Journal of the Acoustical Society of America, 22, 725-730.
Leavitt, H.J. (1951) Some effects of certain communication patterns on group performance. Journal of Abnormal and Social Psychology, 46, 38-50.
Shaw, M.E. (1964) Communication networks. Advances in Experimental Social Psychology, 1, 111-147.
高木英至 (1999) 「コミュニケーションネットワークにおける創発的集団構造 − シミュレーションによる分析」, 『社会心理学研究』、14巻、3号、113-122.