(1993作成,1998改訂,1999.3.24大改訂,1999.9.27改訂)
レポート・論文の書き方(簡略版)
──わかりやすい文章を書くために──
福岡安則
1 ワープロ使用
報告もしくは提出のレポート・論文は,ワープロを使用しなければならない.
以前は,学生時代からワープロなどを使っていると,漢字が書けなくなるからよくないと考えていた.だが,考えが変わった.文章指導をしようと思えば,ワープロでないと不都合.頻繁にレポートを書き直して再提出するように求めるつもり.手書きでは,みんなが音をあげてしまう.
もうひとつは,やっぱり,手書きの文章は読みづらい.かつてぼくが学生だったとき,ひょんなことから,ある大先生(“帝大教授”の雰囲気を時代錯誤的に漂わせていた東大教授)がぼくらの提出したレポートにつけた採点を見てしまったことがある.記憶によれば,ぼくの友人のレポートには「字がきれい.81+1」.ぼくのレポートには「字がきたない.81−1」.たいへん頭にきた.しかし,学生のレポートを大量に読む立場になると,その気持ちはわかる.だが,そういう採点はしたくない.ワープロになれば,考えたことの中身だけで評価できる.
それゆえ,まだワープロを持っていない学生は,早急に購入すること.どんな機種を買うか? ワープロ専用機がいいかパソコンがいいかは,それぞれの事情による.文章を書くだけであれば,ワープロ専用機のほうが機能的なことは当然.――そう考えていたけれども,使いはじめてみると,パソコンの魅力は大きい.長いことぼくはワープロ専用機のOASYS 70 SXを使ってきたが,いまではWindows で Microsoft Word を使っている.
注意!
とくに卒論の執筆にあたっては,かならずフロッピィのバックアップをその都度とっておくこと.フロッピィがダメになって泣いた学生がいる!
2 レポート・論文の書式
紙はA4サイズを使用のこと.見た目にきちんとしていて,読みやすければ,適当な割り付けで印刷してよい.
以下に,レポートの書き方のモデルを示す.
「社会学研究法」レポート(1994.4.12) □ かっこいいタイトル ──内容に即したサブタイトル── □ 現代社会学コース○年 氏 名 □ 1□見出し □ □1.1□小見出し □ここから本文を書きはじめる.
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卒業論文や修士論文の場合は,表題紙をつける(表題紙にはノンブルをつけない).2枚めに「目次」をつける(ここからノンブルを1からはじめる).章が変わるつど,また,注や文献の記載がはじまるところで,改ページをする.
以下が,卒論/修論の表題紙のサンプルである.「タイトル」,「――サブタイトル――」,「埼玉大学教養学部○○年度卒業論文」または「埼玉大学大学院文化科学研究科○○年度修士論文」,「学籍番号」,「氏名」を,適当な活字の大きさと適当な行間をとって,美しく仕上げる.
一夏の二風谷 ――いまを生きるアイヌ―― 埼玉大学教養学部1993年度卒業論文 現代社会学コース 学籍番号 10xxx 小池田 達郎
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3 文章の形式上の書き方
(1) 日本語の文章を書くときは,すべて,全角文字で入力すること.句読点やカッコや各種記号も,この原則で入力する.ただし,欧文および算用数字は半角文字(英文モード)で入力する(詳しくは後述).
(2) むやみに漢字を使わないこと.ひらがな推奨! 接続詞,副詞は原則として,かながきにすること.たとえば,「従って」→「したがって」,「又」→「また」,「嘗て」→「かつて」,「極めて」→「きわめて」等々.
(3) 横書きの文章ゆえ,和文の句読点は全角の「.」と全角の「,」を使うこと.ただし,「。」と「,」でも,「。」と「、」でも,一貫していればよしとする.
(4) 同じく横書きの文章ゆえ,数字は算用数字「1,2,3……」を使い,漢数字「一,二,三……」は原則として使わない.たとえば,「第1に」「第2に」等々.ただし,「一生懸命」など,漢数字を使わないと不自然な場合には,漢数字を使用のこと.
(5) 算用数字,欧文文字は,すべて半角文字(英文モード)で入力すること.たとえば,「1993年」(「1993年」とはしない).“ethnicity”(“ethnicity”とはしない).「NGO」(「NGO」とはしない).また,プリントアウトするとき,欧文の文字はかならずワードラッピングをかけること.ワードラッピングの処理だと,文字間隔があきすぎるような場合には,適切なかたちでハイフネーションをおこなうこと.
(6) 「一」(漢数字のイチ),「ー」(のばし記号.「コミュニケーション」),「−」(四分ハイフン.「差別−被差別の関係」),「──」(ふたますダッシュ.副題をつけるときや文章の途中での説明に使う),「-」(英文のハイフン.「middle-class」)を,きちんと使い分けること.
(7) ひとつのセンテンスは,できるだけ簡潔に短く書くこと.だらだらした文章は最悪.3行にもわたって句点がないような場合は,いくつかの文章に分解できないか,再考すること.「……だが,……だ」→「……だ.だが,……である」.
(8) ひとつの段落が長ったらしいのもダメ.段落が長くなった場合は,どこかで改行できないか,再考すること.
(9) 一定のまとまりをもったかたちで文献から引用するときは,前後各1行ずつあけ,かつ,左側を2字分字下げ(インデント)して,引用であることを明示すること.──みんなに読書ノートを作成してもらうと,引用だらけの文章を書くことが多い.上記のような引用の明示をおこなうと,少しは自分の読書ノートの作成の仕方に“恥ずかしさ”を覚えやすくなるのではないかと思う.
論文中で言及した研究者名は,初出時にはフルネームで表記し,次回以降は原則として姓のみを表記する.
なお,引用箇所については,かならずもう一度原文にあたって,引用の際の書き写し間違いがないかどうかを,念入りにチェックすること.いわゆる研究者の論文でも,厳密にチェックすると10編のうち9編ぐらいは,引用の間違いがあるものだ.引用は,あくまで原文どおりでなければならない(ただし,原文の句読点を「.」と「,」に,漢数字を算用数字に,強調点をアンダーラインに変えてよい).
以下に,引用文の記載の仕方を例示する.
□「社会心理」と「イデオロギー」が対になって用いられるときには,これらの語の意味はつぎのようになる.「社会心理」とは,一定の社会集団によって抱かれる,多様な意見とか態度とか好悪の感情など,相対的にアモルフな(非定型な)意識をさし,「イデオロギー」とは,そのようなアモルフな社会心理が,特定の思想家の理論形成の営みによって整序され,結晶化された思想を意味する.この場合,「イデオロギー」は「観念形態」と訳される. □ちなみに,高橋徹は,この両概念をつぎのように特徴づけている. □□ □思想・理論・教義などを含む狭義の「イデオロギー」が知識階級を主体とした目的意識的な所産であるのに対して,「社会心理」は大衆的基盤における自然成長性をその特徴としている.(高橋 1965: 333) □□ □高橋は,続けてこう述べる. □□ □そして,「イデオロギー」が首尾一貫した論理構造をもち,社会成員の心意の方向づけを行なうのに対して,「社会心理」は衝動機構に緊縛されているため矛盾や非合理性を残留させながらも,社会の実質的エネルギーとして機能する.(高橋 1965: 333) □□ □いっぽう,「ユートピア」と「イデオロギー」とが対比されるとき,そこでは思想のもついわば方向性に目が向けられる.(以下略) |
(10) 注は,本文中に上付きで1)をつけ,本文の末尾に1行あけてまとめて記載すること.
ホームページに貼り付ける過程で消えてしまったが,実際には,注の文章は,2行目以降は全角2字分字下げする.
[注] □1)□1984年5月25日改正の「国籍法」の第14条には,「国籍の選択」として次のように規定されている.(以下略) □2)□在日韓国・朝鮮人は,通常,約70万人と言われているが,この数字のあげ方には明確な基準が欠けている.というのは,……(以下略) |
(11) 文献は,[注]のさらに後に,やはり1行あけて,アルファベット順にリストアップすること(同一著者の同一年度の複数の文献をあげる場合は,1991a, 1991bなどとする).欧文の書名,雑誌名はイタリック体にする(アンダーラインをつけるかたちでも可).
なお,英文の著書・論文のタイトルは,途中の冠詞と前置詞・接続詞を除き,単語の最初を大文字にする.独文の著書・論文は,タイトル全体の冒頭の文字および途中に出てくる名詞の最初の文字を大文字にする.仏文の著書・論文は,固有名詞を除き,タイトル全体の冒頭の文字のみを大文字にする.
以下に,文献の記載の仕方の例を示す(訳書,英文の著書,和文の著書,和文の論文,和文の編書論文,英文の論文などをアルファベット順に記載してある).自分勝手な文献の記載の仕方はしないこと.なお,K. Marxのものは,執筆時点で未発表もしくは再録の場合の文献の示し方である.
ホームページに貼り付ける過程で消えてしまったが,実際には,ひとつの文献の記載が2行目以降につづくときは,2行目以降は全角2字分字下げする.
[文献] Allport, Gordon W., 1942, The
Use of Personal Documents in Psychological Science, New York: Social
Science Research Council.(=1970,大場安則訳『心理科学における個人的記録の利用法』培風館.) Broadbent, Jeffrey, 1998, Environmental
Politics in Japan: Networks of Power and Protest, New York:
Cambridge University Press. 福岡安則,1992,『現代若者の差別する可能性』明石書店. ────,1993,『在日韓国・朝鮮人──若い世代のアイデンティティ』中央公論社. 福岡安則・辻山ゆき子,1991,『同化と異化のはざまで──「在日」若者世代のアイデンティティ葛藤』新幹社. 石川准,1991,「エスニシティ研究の現在──アイデンティティ問題を中心に」『解放社会学研究』5: 89-111. Marx, Karl, [1844] 1956,
"Zur Judenfrage," Marx Engels Werke, Band 1, Berlin: Diets
Verlag, 347-77.(=1974,城塚登訳『ユダヤ人問題によせて/ヘーゲル法哲学批判序説』岩波書店.) 高橋徹,1965,「日本における社会心理学の形成」高橋徹・富永健一・佐藤毅『社会心理学の形成』培風館,317-505. Yasuda, Saburo, 1964, "A
Methodological Inquiry into Social Mobility," American Sociological
Review, 29(1): 16-23. |
(12) 文献からの引用をしめす注は,本文中に,全角の丸カッコ( )を用いて著者名,発行年を記載する.著者名と発行年のあいだは半角のスペースをいれる.たとえば,(福岡 1993).訳書の場合には,原著者名,原著の発行年,訳書の発行年を記載する.たとえば,(Allport 1942=1970).
上記のK. Marxの文献の場合,既訳を用いないのならば(Marx
[1844] 1956),既訳を用いるのならば(Marx [1844] 1956=1974)とする.
頁数の記載が必要であれば,著者名,発行年の後に半角コロンと半角スペースを入れて,(福岡 1993: 85-9)のようにページ数を記載すること.
4 文章の内容面での書き方
講義,演習ともに,レポートは,項目だけをそっけなく書いたいわゆるレジュメのかたちは認めない.かならず,きちんとした文章表現のかたちをとること.
“自分でわかっていないこと”を書いてはならない.“わかったこと”だけを書け,というのではない.“わかっていないこと”は,各種の社会学事典などを参照して,“わかった”うえで書くこと.福岡研究室または現代社会学実習室に,数種類の社会学事典がある.利用してよい.
5 レポート・論文提出上の注意
プリントアウトしたら,かならず読み返す.誤字・脱字などの間違いがあるまま提出してはならない.また,前述の「文章の形式上の書き方」に違反してはいないかをチェックする.間違いを見つけたら,ワープロ画面上で訂正して,プリントアウトしなおす.──ぼくらが,原稿を書いて,編集者に渡す場合でも,かならずそうしている.当然のこと.
付記
この「レポート・論文の書き方(簡略版)──わかりやすい文章を書くために」は,ぼくが起草を担当した日本社会学会編集委員会の『社会学評論スタイルガイド』に準拠している.詳細は,インターネット上でそのスタイルガイドを見ること.
http://wwwsoc.nii.ac.jp/jss/JSRstyle/JSRstyle.html