プロジェクト名:計算手法による人間の社会特性の再現

 公式には、このプロジェクトは次のようなものです。

埼玉大学21世紀研究機構 短期プロジェクト
期間:2001年10月1日から3年間
プロジェクトの概要

 社会科学のモデリングに計算手法(コンピュータシミュレーション)を用いる試みは1960年頃に始まり、1990年前後には本格的な展開をみた。計算手法の適用は研究集団ごとに Artificial Societies、DAI アプローチ、Microsimulation といった標語のもとに推進されている。計算手法は現在、社会学、社会心理学、政治学、経済学、経営学などの分野で一定の地位を占めつつある。その一方で、表面的なお題目に酔いしれる時期を過ぎた現在、計算手法によって実質的にいかなる知見が確保できるかが課題となっている。

 実質的な知見の産出可能性を考えたとき、計算手法の意義が最も高いのは進化型のシミュレーションを適用する場合であるとわれわれは見込んでいる。進化型のシミュレーションとは、独立した計算上のエージェント間で戦略の進化を許すことにより、そのエージェント社会の中でいかなる社会特性が進化的な均衡として生じるかを思考実験するものである。

 進化型シミュレーションの適用には次のような意義がある。第1は、この方法が社会諸科学に通底する根本問題、すなわち特定の社会特性(社会秩序)はいかにして可能か、という問題への解答を推論するための、ほとんど唯一の方法であることである。(e.g., 利他性や贈与経済はいかにして可能か?)通常は所与と仮定とされる諸条件を内生変数化するため、この方法はより完結した説明を与えることを可能にしている。第2に、この方法による社会特性はエージェントの戦略(行動特性)の組と対応するため、社会特性と同時に人間特性の進化の説明をも提供していることである。(e.g., 人間の内輪びいきはいかなる条件で進化的に選択されるか?)近年注目を浴びる進化心理学の課題へのアプローチとしてこの方法を捉えることもできる。第3に、この方法は社会組織や人間特性の説明に利用できるだけでなく、人間に外在的な文化特性の成立根拠の推論を可能にしている。(e.g., 便益と負担間の「公平」観念はいかに成立するか?)

 むろん本研究は現代社会のような複雑な社会状況を直接説明することを目的とはしない。本研究が戦略的に採用するのは次の方針である。第1に、再現する社会が単純で小規模である必要があるため、人類がその多くの歴史的時間を過ごした「未開」の狩猟採集社会を想定し、進化型のシミュレーションを適用する。この選択は進化心理学の課題を扱う上で有利に働くだろう。第2に、実際の人間を被験者として用いる小規模社会のシミュレーションゲーム実験(e.g., SIMSOC)をもう1つの再現対象に選ぶ。その副産物として、(人間を用いた)シミュレーションゲーム実験用の汎用的なプログラムも開発したい。このシミュレーションゲームは資源・廃棄物問題などの現実的、実用的な研究・教育用としての利用価値も高い。

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