読書案内―2・3年生のための歴史学入門書―

リヨンの町並みとローヌ川(フランス・リヨン)


定価はすべて本体価格。☆印のあるものは絶版または品切れ中(1999年12月31日現在)。図書館で借りて読みましょう。

項 目

◆歴史学・考古学とはどのような学問かを知るために

◆歴史学・考古学の基礎知識を得るために

◆歴史学・考古学の現場へ一歩踏み出すために

◆歴史への視野を拡げ、歴史感覚を養うために

◆番 外〜歴史学入門一歩前〜



◆歴史学・考古学とはどのような学問かを知るために

E・H・カー(清水幾太郎訳)『歴史とは何か』(岩波書店〈岩波新書〉、1962年、700円)
*「歴史とは現在と過去との対話である」という言葉で知られる、コンパクトな歴史入門書の定番。40年も前の本なので、近年の言語論的転回以後の厄介な議論には触れられていませんが、この本で述べられている歴史学の特性については歴史学に携わる者の共通認識となっています。ぜひ読んでみてください。〔西坂〕

二宮宏之『全体を見る眼と歴史家たち』(平凡社<平凡社ライブラリー>、1995年、1456円)
*社会史研究の意義と特色が深く多面的に論じられていますが、あわせて社会史研究の抱える問題点も随所で厳しく指摘されています。主としてフランスを対象にした論集ですが、研究分野を問わずぜひ一読してみてください。〔市橋〕

リュシアン・フェーブル(長谷川輝夫訳)『歴史のための闘い』(平凡社<平凡社ライブラリー>、1995年、874円)
*マルク・ブロックとともに『アナール』を創刊し、伝統的歴史学を批判して、新しい歴史学を提唱したフェーブルによる歴史の方法論についての論考を収録しています。最後に収められているマルク・ブロックの壮絶な生涯についての追悼文も胸を打つものです。〔小林〕

鈴木公雄『考古学入門』(東京大学出版会、1988年、2200円)
*日本において最も広く読まれている考古学の入門書。考古学の定義、型式学、考古学で扱う時間・空間・機能の問題、関連諸科学分野の応用、現代社会と考古学との関係などについてわかりやすく説明しています。〔高久〕

V・G・チャイルド(近藤義郎訳)『考古学の方法』(河出書房新社、1994年、2718円☆)
*ヨーロッパにおける考古学研究法の入門書。考古資料の性格、編年方法、文化の概念などをわかりやすく説明しています。〔高久〕

J・ディーツ(関俊彦訳)『考古学への招待』(雄山閣出版、1994年、2136円)
*アメリカにおける考古学研究法の古典的入門書。年代決定方法、人間と物質資料の関係などをわかりやすく説明しています。〔高久〕

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◆歴史学・考古学の基礎知識を得るために

『日本の歴史』1〜9(岩波書店〈岩波ジュニア新書〉、1999〜2000年、740円)
*第1巻「日本社会の誕生」から第9巻「日本の現代」まで、第一線の研究者が、最新の研究成果をもとに、それぞれの時代を描き出しています。ジュニア新書だからと言ってみくびってはいけません。時代のイメージを掴むのに最適です。興味を持つ時代については繰り返して読んでみることを奨めます。〔西坂〕

『古代史復元』1〜10(講談社、1988〜1990、各2880円☆)
*日本における旧石器時代〜中世の考古学概説書。文章がわかりやすく、図面や写真を豊富に取り揃えていて、まるで図録を見るように気軽に読むことができます。ただし、各巻に盛り込まれている研究成果は侮れません。とくに第6巻「古墳時代の王と民衆」は一読の価値あり。日本考古学を専攻したい学生は、まずこのシリーズから読み始めよう。もうすでに絶版になっていますが、神田の古本屋で安く売られていますので購入可能です。〔高久〕

堀 敏一『中国通史―問題史として見る―』(講談社〈講談社学術文庫〉2000年、1100円)
*中国前近代史のコンパクトな概説書ですが、単に事実を並べるのではなく、「そのような事実が選択され、研究されたのはなぜか、またその中でどのような点が大切か」といった研究史的な視点から叙述がなされています。それでいて無味乾燥な学説紹介に終始することなく、通史としても十分わかりやすく面白い!〔籾山〕

奥村 哲『中国の現代史―戦争と社会主義―』(青木書店、1999年、2200円)
*バランスのとれた中国近現代史の概説書はいくつかありますが、本書は中国社会主義の歴史的性格について独自の視点から問題提起した、きわめて個性的な概説書。中国史ばかりではなく、広く現代史全般に関心をもつ学生にも読んでほしいが、これから中国近現代史を本格的に学ぼうとする学生は、まず最初に読んでおくべき必読書。〔笹川〕

堀米庸三『中世の光と影』(講談社〈講談社学術文庫〉、1978年、上602円、下563円) 
*原著の出版年代は古いのですが、ヨーロッパ中世の全体像を知るためには最適です。〔岡崎〕

阿部謹也『物語ドイツの歴史』(中央公論社〈中公新書〉、1998年、860円) 
*ヨーロッパのなかのドイツ、中世の庇護権アジールと現代のアジール、ドイツ的とは何かという三つの視点から書かれたドイツ史概説。政治史が中心だった従来のドイツ史に対し、音楽史や社会史的記述が随所に取り入れられています。〔岡崎〕

川北稔・木畑洋一編『イギリスの歴史』(有斐閣、2000年、1900円)
*「帝国=コモンウェルスのあゆみ」が副題。日本におけるイギリス史研究は、帝国の視点から論じられることが多く、本書はその代表的な入門書といえるように思います。イギリス史を考えている人はぜひ読みましょう。〔市橋〕

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◆歴史学・考古学の現場へ一歩踏み出すために

吉田 孝『日本の誕生』(岩波書店〈岩波新書〉、1997年、660円)
*「日本」という名称ができたのはいつですか?「ヤマト」、「倭」、「日本」の違いは何ですか? 外国人からよく尋ねられる質問です。皆さんはこの質問に正確に答えられますか? 答えられない人は是非この本を読んでみましょう。これらの答が弥生時代以来の歴史的コンテクストからわかりやすく説明されています。〔高久〕

石井 進『鎌倉びとの声を聞く』(NHK出版、2000年、1300円)
*日本史の教科書などでおなじみの『蒙古襲来絵詞』を材料に、その内容を読み解きながら、それが描かれた理由や意味などを論じた興味深い書物です。絵画資料を歴史の材料として利用する場合の一つの見本ともいえます。ほかに、安達泰盛や北条時頼、あるいは津軽の十三湊に関する論考が収められています。〔田代〕

網野善彦『日本中世の民衆像―平民と職人―』(岩波書店〈岩波新書〉、1980年、700円☆)
*これまで、稲作農業をもとに「水田中心史観」で描かれてきた日本の歴史に対する痛烈な批判の書です。とくに中世社会における「年貢」や「公事」のもつ意味を再吟味するとともに、供御人・海民・鋳物師などの非農業民(「職人」)の存在と天皇制とのかかわりなどについても言及しています。20年ほど前に刊行されたものですが、内容はいまだに新鮮です。〔田代〕

網野善彦『増補 無縁・公界・楽―日本中世の自由と平和―』(平凡社〈平凡社ライブラリー〉1996年、1165円)
*「エンガチョ」という子供の遊びからはじまり、世俗的な権力や人間関係とは「無縁」な職人・芸能民・勧進聖など、中世に生きた遍歴漂白する人びとの存在を描いた話題の書物です。これまで欠落していた日本史の一側面が、「無縁」をキーワードとしてさまざまに論じられています。原著の刊行はいささか古いのですが、刺激的な書物です。〔田代〕

藤木久志『戦国の作法―村の紛争解決―』(平凡社〈平凡社ライブラリー〉、1998年、1000円)
*戦国時代の村落やそこに生きる人びとは、戦国争乱のなかで、いかにたくましく、またしぶとく生き抜いていったか。「自力救済(自検断)」の原理にもとづいて行われた当時の人びとの紛争解決のしくみを、さまざまな事例を通して明らかにしています。〔田代〕

藤木久志『雑兵たちの戦場―中世の傭兵と奴隷狩り―』(朝日新聞社、1995年、2400円)
*戦場に駆り出された雑兵たちは、戦国争乱の時代をどのようにして生き抜いたか。大名や武将たちではなく、名もなき雑兵たちの目からみた戦場の状況が鮮やかに描かれています。戦場を絶好の稼ぎ場とする「出稼ぎ雑兵論」は、「目からウロコが落ちる」ほど新鮮です。〔田代〕

山口啓二『鎖国と開国』(岩波書店、1993年、2524円☆)
*日本近世史の全体像の叙述に真正面から直球勝負で挑んだ一冊。標題から予想される世界史的な視野はもちろん、生産技術から説き始め、伝統的権威に着目した国家論まで至る、深さと広がりがあります。語り口はやさしいのですが、中味は高度。残念ながらただいま品切れ中ですので、図書館で借りて読んでみてください。〔西坂〕

高橋 敏『江戸の訴訟―御宿村一件顛末―』(岩波書店〈岩波新書〉、1996年、631円)
*19世紀半ばの駿河国御宿村で起きた無宿人殺害事件の処理を巡って、江戸に召し出された村名主と彼をとりまく公事宿や用人たち。村方文書・日記・武鑑等の文献史料を用いて、社会のしくみと市井の人々の人生模様にどこまで迫れるか、歴史小説の向こうをはって、その可能性に挑戦した一冊です。〔西坂〕

安田 浩『天皇の政治史―睦仁・嘉仁・裕仁の時代―』(青木書店、1998年、2500円)
*日本の近代の歴史を勉強する時に避けて通れない存在の一つに天皇があります。本書は、明治・大正・昭和の三天皇が、個々の政局で果たした役割を具体的に分析することを通して、近代天皇制国家の特質を浮かび上がらせようとしたものです。史料の引用も多く、歯ごたえ十分ですが、近代史に関心のあるひとは、ぜひ挑戦してみてください。〔西坂〕

大庭 脩『親魏倭王』(増補版)(学生社、2001年、2480円)
*「古代史にロマンはない」というのが著者の口癖でした。邪馬台国をめぐる議論は近年ますます過熱してきた感がありますが、基本文献となる倭人伝は正史の一部。中国の制度をふまえて読み解く姿勢が要求されます。本書はそのお手本とも言うべき一冊で、冷静な歴史家の視線を感じさせます。〔籾山〕

スーザン・ウィットフィールド(山口静一訳)『唐シルクロード十話』(白水社、2001年、3000円)
*8〜10世紀の中央アジアを舞台に、ソグド人の商人、チベット人の兵士、ウイグル人の馬飼、唐の皇女など、多彩な人々の姿を10篇の物語に仕立てた「シルクロード人物志」。「お話」の形を借りて歴史研究の成果を伝えるという試みが、みごとに成功しています。著者は大英図書館に勤務する国際的な敦煌学者。〔籾山〕

大澤正昭『主張する〈愚民〉たち―伝統中国の紛争と解決法―』(角川書店、1996年、1650円)
*南宋時代の判決集『名公書判清明集』を素材として、宋代中国の紛争と「裁き」の姿を軽妙な筆致で―時に脱線しつつ―伝えてくれます。「落としどころ」や「言いふくめ」が組み込まれた裁判の仕組み自体、十分に興味深いのですが、裁かれる庶民の「したたかさ」も含めた社会史の読み物としても面白い。〔籾山〕

宮崎市定『科挙―中国の試験地獄―』(中央公論新社〈中公文庫〉、1984年、524円)
*清朝を中心に科挙の実態を余すところなく描いた古典的名著。英雄豪傑の乱舞する中国史しか知らないひと、昔の中国ではすべてが皇帝の一存で決められたと思っているひと、そして何より受験勉強はもうこりごりだと思っているひとに、一読をすすめます。〔籾山〕

野沢 豊編『日本の中華民国史研究』(汲古書院、1995年、3786円)
*日本における中国近代史研究は、ここ20年ほどの間に大きく変貌しました。本書は各分野ごとにそれぞれの専門家がその研究動向を解説しています。歴史研究にとって、過去の研究がどのような問題関心にもとづいて、何をどこまで明らかにしてきたかという、研究史の把握は避けて通ることはできません。巻末に詳細な文献目録があり、便利。〔笹川〕

ロイド・E・イーストマン(上田信・深尾葉子訳)『中国の社会』(平凡社、1994年、4660円)
*アメリカの大学生向けに執筆された中国研究のテキストを翻訳したもの。初学者向けにも関わらず、執筆時点までの最新の研究成果を幅広く盛り込み、水準の高さ、話題の豊富さ、内容の面白さに驚かされます。日本の大学で中国を学ぶ学生も、この程度の知識を身につけるようになってほしいし、それができればたいしたもの。〔笹川〕

今野国雄『西欧中世の社会と教会』(岩波書店〈岩波新書〉、1973年☆)
*出版年代は古いのですが、表題にある通り中世の社会と教会について一般的知識や問題を知るための基礎的書物です。〔岡崎〕

山内 進『決闘裁判―ヨーロッパ法精神の原風景―』(講談社〈講談社現代新書〉2000年、680円)
*「決闘裁判」というヨーロッパ中世特有の裁判のあり方から、さらに中世特有の法意識、精神のあり方を探った研究。現代社会には見られない過去特有の事象から、過去特有の精神のあり方を探るというタイプの歴史書の一つの典型として。〔岡崎〕

松井良明『近代スポーツの誕生』(講談社〈講談社現代新書〉2000年、660円)
*イギリスで中世以来民衆が祭りや娯楽として行っていたブラッディ・スポーツが19世紀になって「近代スポーツ」に変容する過程を記述しています。現在の私たちの身近にある事象から出発し、そこからさかのぼって、それが一つの歴史的産物であることを示し、同時に、「現在」自体の相対化を行うタイプの歴史書として。〔岡崎〕

渡辺一夫『フランス・ルネサンスの人々』(岩波書店〈岩波文庫〉、1992年、650円☆)

大江健三郎『日本現代のユマニスト渡辺一夫を読む』(岩波書店、1984年、2000円☆)

ミハイール・バフチーン『フランソワ・ラブレーの作品と中世・ルネサンスの民衆文化』(せりか書房、1980年、6500円)
*松山の高校生大江健三郎は岩波新書版『フランス・ルネサンス断章』を読み、東大・仏文への進学を決意し、生涯の師にめぐり会うことになります。渡辺から大江へと引き継がれたユマニストの志が、光を放って世界を照らしています。若さ溢れる、力に満ちた青年は、ぜひバフチーンのラブレー論に挑戦すべきです。〔八田〕

三宅立『ドイツ海軍の熱い夏 水兵たちと海軍将校団』(山川出版社、2001年、2900円)
*第1次世界大戦期に、軍艦内での食事の不満からドイツ革命につながる反抗運動が起き、各種の資料が今日まで残され、それに基づき、周到かつ精緻な研究がなされている。長年にわたる資料の収集とそれらの読解をベースにした、すぐれた歴史研究です。〔八田〕

マルク・ブロック(井上泰男ほか訳)『王の奇跡―王権の超自然的性格に関する研究/特に フランスとイギリスの場合―』(刀水書房、1998年、8000円)
*王の御手には病を治す力があるという、今日のロイヤル・タッチにも継承されている俗信が、イギリスとフランスでどのように生まれ広まったのかという問題を通して、中世から近代にいたる王権の変容を壮大なスケールで描き出したものです。〔小林〕

ロバート・ダーントン(海保真夫ほか訳)『猫の大虐殺』(岩波書店〈同時代ライブラリー〉、1990年☆)
*子供のころに親しんだペローやグリムの民話―そうした民話を通して語られている当時の農民生活、そして農民の願望が、ダーントンによって明らかにされていくとき、民話はおとぎ話ではなく、壮絶な過去の経験の物語として私たちの前に立ち現れてきます。〔小林〕

アルレット・ファルジュ&ジャック・ルベル『1750 パリ子供集団誘拐事件』(新曜社)
*1750年、ルイ15世治下のパリで、子供が誘拐される事件が相次いだ。病にかかった国王が、子供の血の風呂に入るため誘拐したのだという噂に、民衆はパニックに陥ります。噂の真相は? そして、この事件が物語る国王と民衆の関係の変容とは?〔小林〕

ロジェ・シャルチエ(松浦義弘訳)『フランス革命の文化的起源』(岩波書店、1999年、2600円)
*革命前夜に印刷され流布した、王権を風刺し、王の権威を失墜させる版画や小説は、果たしてフランス革命の起爆剤となったのか否か―この問題を、ルプレザンタシオン、アプロプリアシオンといった新しい概念を駆使して読み解こうとしたシャルチエによる入門書です。〔小林〕

アラン・コルバン(渡辺響子訳)『記録を残さなかった男の歴史―ある木靴職人の世界 1789-1876―』(藤原書店、1999年、3600円)
自らが記録を残さなかった男の一生を、歴史学はどこまで再現できるのか。従来の「民衆史」が個別性を無名性の中に解消してきたと批判するコルバンは、19世紀の民衆の「画廊」の中に、ひとりひとりの民衆の肖像を掲げていくような歴史研究めざしたといっています。〔小林〕

A・J・P・テイラー(都築忠七訳)『イギリス現代史』(みすず書房、1987年新装版、☆)
*20世紀前半のイギリス社会を扱った通史で、古典的作品です。論争家であり積極的にテレビから歴史を語った著者の手になる二段組の分厚い本ですが、基礎知識を得る上でも、独特な語り口を享受できる点でも、読むに値します。図書館から借りてじっくり読んで下さい。〔市橋〕

ピーター・ラスレット(川北稔ほか訳)『われら失いし世界―近代イギリス社会史―』(三嶺書房、1986年、4369円)
*人口史研究の成果を基本にしたイギリス社会史の古典です。BBC放送局で放送されたものがもとになっています。〔市橋〕

安斎正人『無文字社会の考古学』(六一書房、1999年[原著は1990年、六興出版]、2500円)
*現代考古学理論の概説書。考古学と進化論との関係、プロセス考古学、民族誌考古学などについて議論を展開しています。〔高久〕

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◆歴史への視野を拡げ、歴史感覚を養うために

成沢 光『現代日本の社会秩序―歴史的起源を求めて―』(岩波書店、1997年、2400円)
*政治学者である著者は、現代の日本社会の特徴として、清潔さ・明るさ・整然さの病的なまでの過剰を挙げ、人々を包み込み、自閉させる〈快適な〉過剰秩序のコスモスの起源を、日本の近代・前近代に探ります。歴史への接近方法の一つとして、現代への明確な課題意識から発した問題遡及的なアプローチがありますが、この本はその典型と言えます。〔西坂〕

P・A・コーエン(佐藤慎一訳)『知の帝国主義―オリエンタリズムと中国像―』(平凡社、1988年、4200円)
*アメリカの中国近代史像におけるパラダイムの変遷と到達点が見事に描かれています。読者は、それぞれの時代と歴史像との相関関係やその相剋が生み出すドラマを理解するだけでなく、厳しい相互批判を繰り返しながら前進してやまないアメリカの歴史学界のエネルギーに圧倒されるでしょう。〔笹川〕

若林正丈『蒋経国と李登輝』(岩波書店、1997年、2500円☆)
*台湾の民主化・自由化に大きな役割を果たした二人の政治指導者の伝記。彼らの苦渋に満ちた政治的営為を通して、複雑で屈折した歴史を辿った台湾という地域の特質が明瞭に浮かび上がります。平易で、読者を引きつける語り口。台湾の現状を、その歴史的背景から理解する上で最適。〔笹川〕

リチャード・ホガート(香内三郎訳)『読み書き能力の効用』(晶文社、1974年、3800円☆)
*イギリスの戦後社会史、文化史に関心のある人にはぜひ読んでほしい本です。イギリスのカルチュラル・スタディーズの出発点ともなった記念碑的な作品で、労働者階級から知識人階級へと境界線を越えていった著者の自伝的要素も濃い、文化社会学の古典。〔市橋〕

長部日出雄『二十世紀を見抜いた男マックス・ヴェーバー物語』(新潮社、2000年、2300円)
*小説家の著者は、青年期に一度挫折したテーマに、60歳を過ぎてから再挑戦し、この本を書き上げました。ヴェーバー研究のレヴェルが高いわが国では、日本語文献(それだけでも汗牛充棟!)の消化摂取に依拠する本書はあまり評価されないかも知れませんが、文章はさすがに読みやすく、近代人が陥ったアポリアをよく描いていると思います。〔八田〕

谷 泰『牧夫フランチェスコの一日』(平凡社〈平凡社ライブラリー〉、1996年、1165円)
*イタリア中部山村の生活者の生きざまを描くことによって、農耕とは異なる家畜管理の地中海的特色を明らかにしています。牧畜文化になじみが薄い日本人にとって、ほかに類書のない、まさに出色の生活誌です。著者は『季刊人類学』(京都大学人類学研究会、講談社)の編集に当たりましたが、その編集方針には、「フィールドのにおいがただよってくるような記事がほしい」とあります。〔八田〕

川田順三『サバンナミステリー 真実を知るのは王か人類学者か』(NTT出版、1999年、1700円)
*西アフリカ、旧モシ王国の王は、即位33年目の年に先祖の土地を訪ねなければならない。この儀礼に立ち会った著者は、そこで伝統=歴史が「創られて」ゆくさまを目の当たりにして当惑します。歴史とは客観的な実在ではなく、主観にもとづく表象、現在のために解釈された過去ではないか。これは今日の歴史学にとっても避けて通れない問いかけでしょう。〔籾山〕

綾部恒雄編『文化人類学15の理論』(中央公論新社〈中公新書〉、1984年、800円)
*文化人類学における諸理論を概説。考古学データの解釈においても、これら諸理論は不可欠。〔高久〕

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◆番 外〜歴史学入門一歩前〜

*教員お勧めの歴史小説・ノンフィクション・映画など。

岡本綺堂『半七捕物帳』1〜6(光文社〈光文社文庫〉、1985〜86年、590円)
*原著は、1917年から36年にかけて執筆された捕物小説の元祖。現代の推理小説のようなトリックの奇抜さやスリルとサスペンスには欠けますが、岡引きだった半七老人の昔語りの中に、幕末の江戸の人々の生活や市井の風景が鮮やかによみがえります。今井金吾『半七捕物帳江戸めぐり』(ちくま文庫、1999年、720円)と併せて読むと興趣倍増。〔西坂〕

ユン・チアン(土屋京子訳)『ワイルド・スワン』(講談社〈講談社文庫〉、1998年、上・中・下各762円)
*ご存じ、世界的ベストセラーとなったノンフィクション小説。近現代中国の激動に翻弄されつつも、逞しく生き抜いた著者、その母、祖母の女三代の歴史が生々しく綴られています。とりわけ現代中国の政治運動の凄まじさに言葉を失いますが、子細に読めば、中国社会の特質を考える手がかりがちりばめられています。〔笹川〕

ハインリヒ・ハラー(福田宏年訳)『セブン・イヤーズ・イン・チベット』(角川書店〈角川文庫〉、1997年、940円)
*第二次世界大戦の勃発によりインドで戦争捕虜となったオーストリア人の登山家は、ヒマラヤのかなたチベットに向けて収容所を脱走する。荒涼たるチャンタン高原の横断、たどり着いたラサでのダライ・ラマとの交流などは類書中の白眉。中国侵攻前夜のチベット社会の姿を伝えている点でも貴重です。映画は残念ながら駄作。〔籾山〕

『薔薇の名前』(映画/原作はウンベルト・エーコ『薔薇の名前』)
*中世の修道院世界と当時のヨーロッパにおける書物の重要性を知るのに恰好の入門書。映画の時代考証は、フランスの中世史家、ジャック・ル・ゴフが担当しており、ベネディクト会修道院の生活情景、異端審問、魔女狩りなどの様子が忠実に再現されています。〔小林〕

『ジャック・サマースビー』(映画/原作はナタリー・Z・デイヴィス『帰ってきたマルタン・ゲール』)
*南フランスで起きた偽亭主事件から近世農村の日常生活へとアプローチした歴史家ナタリー・Z・デイヴィスの研究は、最初、デイヴィスの脚本により映画化され、さらに、舞台を南北戦争後のアメリカにおきかえて、ジョディ・フォスター、リチャード・ギア主演で再映画化されています。映画と原作を比べてみるのも一興。〔小林〕

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