3 引用

 

 3.1 研究者名の表記

 論文中で他の論者に言及する場合,初出時にはその氏名はフルネームで記載する.たとえば,たんに「高橋は」とか「佐藤は」と書いたのでは,同姓の社会学者が何人もいて,特定しにくいからである.二度めからは姓だけでよい.ただし,ひとつの論文のなかで言及する論者に同姓の者が複数いる場合には,二度め以降もフルネームで記載する.また,言及する氏名には敬称をつけないのが原則である.

 外国人の研究者に言及する場合も,同様に,初出時にはフルネームを記載する.その場合,カタカナ表記(たとえば,カール・マルクスまたはK. マルクス)でも,アルファベット表記(たとえば,Karl MarxまたはK. Marx)でもかまわないが,ひとつの論文のなかでは上記の4通りの表記法のいずれかで一貫した記載をすることが望ましい.なお,文献リストでの記載法とは異なって,本文中ではファーストネーム,ミドルネーム,ラストネームの順で表記する(民族によって氏名の表記法はさまざまであるが,要するに,初出時は日常的に使用されている語順で表記すればよい).外国人研究者の場合も,二度め以降はファミリーネームだけとする(ファミリーネームをもたない民族の場合には,その人を代表しうる名前の部分を表記する).

 

 3.2 文献を示す割注

 典拠した文献を示す注(以下,文献注と略記)は,本文中の適切な個所に,カッコ書きの割注で記載する.文献注のカッコは全角の丸カッコ(  )を用いる.

 文献注は,後述の文献リストと連動するものであり,(著者名 出版年)のかたちで表記する.著者名と出版年のあいだにはかならず半角のスペースを入れる.たとえば,Russellという著者が1991年に書いた本をとりあげた場合,スペースを入れないと,(Russell1991)となってしまい,わかりにくくなるからである.(Russell 1991)であれば,見やすい.

 文献注には,著者名は姓だけを記載する.ただし,ひとつの論文のなかで参照する文献に同姓の著者が複数いる場合には,文献注の著者名は,漢字表記であれば氏名すべて,アルファベット表記であれば,ファミリーネーム,イニシャルとする.たとえば,Alfred WeberMax Weberの場合であれば,(Weber, A. 19xx),(Weber, M. 19xx)とする.

 文献からの引用をおこなった場合には,(著者名 出版年: 引用ページ数)のかたちでかならず引用ページを明記しなければならない.引用ページ数は数字のみを記載し,xx頁とかpp. xx-yyとは書かない.この場合,出版年とページ数のあいだは半角コロンと半角スペースでつなぐ.

 引用ページが複数ページにわたり,重複している位の数字がある場合には,その記載を省略する.ページ数の記載の省略の仕方には,The Chicago Manual of Styleが従来の方式と呼んでいる省略法と簡素化された方式とがあるが,前者のルールはやや複雑であるので,後者の方式を採用することにしたい.簡素化された省略法の原則はただひとつ,後ろのページ数は前のページ数と異なる桁だけ表記するということである.たとえば,71-2, 100-4, 321-5, 600-13, 1100-23, 1536-8.なお,文献リストにおいて,初ページ-終ページを記載する必要のある場合にも,この方式による.

 

 以下,文献注として想定されるさまざまなケースについて,例示しておく.

 

 単著の場合は,(見田 1979),(Broadbent 1998).

 ページ数も記載する場合には,(見田 1979: 128),(Broadbent 1998: 371-3).以下,ページ数を記載する場合は,同様にする.

 

 同一著者の同じ出版年の文献が複数ある場合には,出版年の後にa, b と小文字のアルファベットを順につけて区別する.(Goffman 1961a),(Goffman 1961b).

 

 共著の場合は,(奥田・広田 1982),(Cohen and Arato 1981).邦文の文献の場合は著者名をナカグロでつなぎ,英語の文献の場合は著者名はandでつなぐ(ドイツ語の文献の場合はund,フランス語の文献の場合はet,等々).なお,and&としてもよいが,ひとつの論文のなかでは一貫した表記法をとらなければならない.

 共著者が3名以上の場合は,(高橋ほか 1965),(Zald et al. 1995).ファーストオーサーのみ記載し,「ほか」「et al.」をつける.

 

 編書の場合は,(栗原編 1996),(Hall ed. 1979).

 編者が2人の場合は,(宮島・梶田編 1991),(Johnston and Klandermans eds. 1995).

 編者が3人以上の場合は,(舩橋ほか編 1998).

 

 訳書の場合は,(Goffman 1961=1984).すなわち,(原著者名 原書の出版年=訳書の出版年)のかたちで記載する.(Goffman 1961=1984: 78)と記載すれば,78というページ数は訳本のページ数を示すことになる.訳書があっても,原書のほうを参照して自分で独自に訳出した場合には,(Goffman 1961)とのみ記載する.(Goffman 1961: 78)と書けば,78は,原書のページ数を示している.原書と訳書双方のページ数を示したい場合には,(Goffman 1961: 78=1984: 86)と表記する.

 

 同一著者の複数の文献を参照した場合には,(見田 1979, 1984).各文献の出版年のあいだは,半角カンマと半角スペースでつなぐ.

 異なる著者の複数の文献を参照した場合には,(奥田 1983; 倉沢編 1990; 高橋編 1992).文献と文献のあいだは,半角セミコロンと半角スペースでつなぐ.

 

 学説史を議論する場合など,初版の出版年が問題となるのに,手元にあるのはたとえば第4版である,といったことがありうる.また,雑誌論文が後年編著書に再録され,執筆者が参照したのは後年の編著書版である,という場合もある.このような場合は,(Simpson and Yinger [1953] 1972)や(吉田 [1974] 1990)のように,(著者名 [初版の出版年] 手元の版の出版年)もしくは(著者名 [初出誌の出版年] 編著書の出版年)のかたちで記載する.

 あるいは,K. マルクスの『経済学・哲学草稿』は,執筆は1844年であるが,長いこと発見されない状態にあった.このような場合も,初版の出版年の表示に準じて,(Marx [1844] 1932)としてもよい.訳書を参照するとなると,(Marx [1844] 1932=1964)となる.

 

 上述の文献注の記載法は,これ自体,可能なかぎり記載の簡略化を追求した結果だと考えられる.したがって,この文献注の記載法においては,"ibid." "op. cit." や「同書」「前掲論文」などを併用してはならない.

 

 ただし,以上の文献注の記載法によるとかえって煩雑になる場合――たとえば,学説研究などで同一文献からの引用頻度がひじょうに高く,かつ,原書と訳書双方のページ数を表示する必要がある場合――には,別途の記載法を考案してもよい.ただし,注などでその旨を明記すること.

 たとえば,K. マルクスの『経済学批判要綱』について議論する場合を例示しておこう.

 

 『経済学批判要綱』からの引用にさいしては,原書は,K. Marx, "Grundrisse der Kritik der politischen Okonomie, Erster Teil," Marx/Engels Gesamtausgabe, Zweite Abteilung, Band 1, Teil 1, Berlin: Dietz Verlag, 1976を用い,訳書は,資本論草稿集翻訳委員会訳「経済学批判要綱 第一分冊」『マルクス 資本論草稿集@』大月書店,1981を用いる.以下,(要綱第一分冊 S. xx, yy頁)というかたちで,上記の原書と訳書のページ数を示す.

 

 3.3 参照

 文献から直接の引用をせずに,他の研究者の業績に言及しただけの場合や自分の言葉でまとめなおした場合でも,かならず文献注をつけなければならない.他の論者の業績に依拠した議論の部分と自分自身の議論の部分を不明確にしたかたちで論文を書くことは,許されないことであり,剽窃の謗りを免れないからである.

 このような場合の文献注のつけ方には,研究者名のすぐ後につけるやり方と,言及が終わったところでつけるやり方がある.どちらの方式を採用してもかまわないが,ひとつの論文のなかでは一貫した方式をとらなければならない.例示すれば,つぎのようである.

 

 見田宗介(1979)によれば,……である.

 見田宗介によれば,……である(見田 1979).

 

 後者の方式をとる場合には,…….(著者名 出版年)とはせずに,……(著者名 出版年).というかたちで文献注のカッコを閉じた後に句読点をうつ.もちろん,必要に応じてページ数を記載してもよい.

 また,著者名(出版年)の記載の仕方は,読者にその文献の参照を求める場合にも見られる.ただし,文献注は,もともと本文のあいだに割り込むかたちの注釈であるので,下段の書き方は間違いであることに注意.

 

 この点については,見田(1979)を参照されたい.

×

 この点については,(見田 1979)を参照されたい.

 

 外国人の研究者に論及した場合には,つぎのいずれかの方式にする(ただし,外国人研究者が直接日本語で書いた文献に言及するさいには,氏名の表記はカタカナ書きとし,日本人研究者の場合と同様にする).

 

 ジェフリー・ブロードベント(Broadbent 1998)によれば,……である.

 ジェフリー・ブロードベントによれば,……である(Broadbent 1998).

 Jeffrey Broadbent1998)によれば,……である.

 Jeffrey Broadbentによれば,……である(Broadbent 1998

 

 すなわち,アルファベット表記の著者名に続いて文献注を入れる場合以外は,たんに(出版年)とはせず,(アルファベット表記の著者名 出版年)を記載すること.

 

 3.4 短い引用

 文献から短い文章を引用するときは,本文中にかぎカッコ「  」でくくるかたちで引用をおこなう.そのさい,引用する文章中に「  」が使われている場合には,そのカッコは『  』に変える.また,引用文が終わってかぎカッコをとじた後に,文献注をつける.

 

……本文……,「……引用文……」(著者名 出版年: ページ)……本文…….

×

……本文……,「……引用文……(著者名 出版年: ページ)」……本文…….

 

 3.5 長い引用

 文献から長めの文章を引用する――引用文が数行にわたる――ときは,前後各1行ずつあけ,かつ,左側を全角で2字分字下げして,引用であることを明示すること.引用部分を全角で2字分字下げするのは,引用文と引用文のあいだに短い本文が入る場合には,全角1字分の字下げでは,引用部分と本文の行頭がそろってしまうので,それを避けるためである.

 引用文の記載の仕方を例示すれば,つぎのとおり.

 

□「社会心理」と「イデオロギー」が対になって用いられるときには,これらの語の意味はつぎのようになる.「社会心理」とは,一定の社会集団によって抱かれる,多様な意見とか態度とか好悪の感情など,相対的にアモルフな(非定型な)意識をさし,「イデオロギー」とは,そのようなアモルフな社会心理が,特定の思想家の理論形成の営みによって整序され,結晶化された思想を意味する.この場合,「イデオロギー」は「観念形態」と訳される.

□ちなみに,高橋徹は,この両概念をつぎのように特徴づけている.

□□

□思想・理論・教義などを含む狭義の「イデオロギー」が知識階級を主体とした目的意識的な所産であるのに対して,「社会心理」は大衆的基盤における自然成長性をその特徴としている.(高橋 1965: 333

□□

□高橋は,続けてこう述べる.

□□

□そして,「イデオロギー」が首尾一貫した論理構造をもち,社会成員の心意の方向づけを行なうのに対して,「社会心理」は衝動機構に緊縛されているため矛盾や非合理性を残留させながらも,社会の実質的エネルギーとして機能する.(高橋 1965: 333

□□

□いっぽう,「ユートピア」と「イデオロギー」とが対比されるとき,そこでは思想のもついわば方向性に目が向けられる.(以下略)

 

 長い引用をおこなう場合の約束事は,つぎのとおり.

 引用部分についても,最初の行頭および新しい段落の行頭は,全角1字分のスペースをとる.また,段落の途中からの引用であっても,冒頭に省略を示す……(三点リーダ2つ)を入れる必要はない.

 この形式の引用においては,引用文の最初と最後にかぎカッコ「  」はつけない.かぎカッコをつけないことで,引用文中の「  」を『  』に変える必要が生じない.

 引用文の末尾には,かならず文献注(著者名 出版年: ページ)をつける.そのさい,引用文の句点の後に,改行やスペースをとらず,続けて文献注をつける.なお,長い引用の場合には,「……として機能する(高橋 1965: 333).」というように文献注の後に句点をうつのではなく,「……として機能する.(高橋 1965: 333」というように「引用文 ピリオド(文献注)」とすることに注意.

 なお,注において,長い引用をおこなう場合には,前後各1行ずつあけることはせずに,注部分の通常の文章よりもさらに左側を全角で2字分字下げするだけでよい.

 

 また,引用一般についての約束事は,つぎのとおりである.

 引用文の原文が縦書きであるとき,原文で用いられている漢数字は,このスタイルガイドの数字の記載法にしたがって,算用数字に変える.ただし,史料などからの引用において,尺貫法などが用いられていて算用数字に置き換えることが不自然な場合は,漢数字のままでよい.

 句読点についても,引用にさいしては句読点をすべて「.」と「,」にそろえる.

 原文の強調点の部分は,アンダーラインを付しておき,プリントアウトした最終原稿に朱書きでその旨を指示しておけばよい.

 原文で旧かなづかいや漢字の旧字体が用いられている場合,引用にさいしては,現代かなづかいと新字体に変えてもよい.ただし,注などで,「引用にさいしては,旧かなづかいは現代かなづかいに,旧字体は新字体に変えた」旨を断ることが望ましい.

 また,原文の引用個所にワープロにない文字などが用いられている場合には,ワープロでは「スペース」にしておけばよいが,プリントアウトした原稿にはかならずその文字を朱書きで書き込んでおくこと(文献リストを作成するときも同様とする).

 引用をおこなうにあたってもっとも大事なことは,原文どおりの引用をすることである.誤字・宛字・脱字などもそのまま転記し,当該語句の上に(ママ)とルビをふらなければならない.したがって,引用箇所については,かならず,もう一度原文にあたって,引用のさいの書き写し間違いがないかどうかを念入りにチェックすること.『社会学評論』への投稿論文でも,原文と照らしあわせてチェックすると,10編のうち9編に引用の間違いがあると言って過言ではない.引用文は,論文執筆者自身とは別の人によって書かれたものである.それゆえ,句読点のつけ方やかなづかいが異なる場合が多い.横目で原文を見ながらワープロに入力していくときに,引用間違いがおこるのが当たり前なのだ.したがって,引用間違いがありうることを前提に,プリントアウトした原稿と原文を照らしあわせながら入念なチェックをしなければならない.

 

 3.6 フィールドワーク資料からの引用

 聞き取り調査による資料,エスノメソドロジーにおける会話分析のデータ,参与観察によるフィールドノーツなどの資料からの引用の場合も,前述の「短い引用」もしくは「長い引用」の書き方にしたがう.ただし,文献注ではなく,資料からの引用文の末尾に注をつける.なお,同一資料から頻繁に引用をする場合には,初出時に一括して注をつけてもよい.

 例示すれば,つぎのとおり.

 

NSが暮らすA県では,公立学校の教員の“国籍条項”は撤廃されており,わずか2名だけだが在日韓国人が正式採用されている.その意味では,教師になりたいという彼女の夢は,まったく実現不可能ではない.ただ,問題は彼女の親の意向だ.

□□

□親が許してくれるなら,できるかぎり,先生になれるように頑張っていきたいと思うんですね.母親は,私の年ぐらいで結婚もしないで仕事してるというのは,恥ずかしい,って.いまも,「恥ずかしくて,親類の人にも言えへんから,頼むから〔産休代替教員の仕事を〕辞めてくれ」って,そればっかり.3)

□□

□彼女のもうひとつの夢であり,悩みの源泉でもあるのは,恋愛問題である.

 

 そして,注を書く.たとえば,つぎのとおり.

 

3)NSは,1964年生まれ,韓国籍の在日3世である.5人姉妹の長女.聞き取りは,1989727日におこなった.

【この例示では,注の文章の2行目以降の全角2字分の字下げが消えています.】

 

 また,聞き取り資料の提示というよりも,あるインフォーマントから得た情報を本文中に記述するような場合には,当該個所に注をつけてその旨を表示する.たとえば,つぎのとおり.このような場合には,氏名に敬称をつけてもかまわない.

 

5)□この点については,199331日に,在日韓国青年会中央本部会長の金京必氏から口頭で教示を得た.

【この例示では,注の文章の2行目以降の全角2字分の字下げが消えています.】

 

 なお,フィールドワークをとおして入手した団体や個人の発行したパンフレットの類からの引用にさいしては,文献リストに記載するとともに文献注をつける.

 

 3.7 新聞記事などからの引用

 新聞記事や商業雑誌などからの引用の場合も,上述の引用規則にしたがうが,たんに(『朝日新聞』1998.11.3朝刊)とか(『毎日新聞』1998.11.11夕刊)と出典を注記するだけでよく,文献リストに文献としてあげる必要はない.ただし,版や地域によって記事掲載の有無や内容,掲載位置が異なることがある(とくに地方版の記事の場合).したがって,必要と思われる場合には,朝刊,夕刊の区別だけでなく,(『○○新聞』1999.3.15夕刊,第○版,○○県版,○面)などとより詳細な情報も記載するとよい.

 発行年月日の記載については,1998113日であれば,邦字の新聞・雑誌の場合には,1998.11.3というように,「年月日」の表記の代わりに半角のピリオドを用い,英字の新聞・雑誌の場合には,たとえば,(The New York Times, November 3, 1998)のように記載する(他の言語による場合は,その言語に一般的な年月日の表示をするか,邦字の場合と同様にしてもよい).

 なお,新聞・雑誌などからの引用であっても,署名入りの文章の場合は,文献リストに記載するとともに文献注をつけるのが望ましい.

 

*****************************************************

「スタイルガイド」の表紙ページに戻る

1 記述上の約束事

2 注

3 引用

4 文献

5 形式上の注意事項

6 一般的留意事項

7 その他

付記

補遺:参考文献

チェック・リスト

付録:修士論文執筆などの参考として