秩父地域おこしプロジェクト

		目次へ
		プロジェクト概要
		調査報告
		文化デザインワークショップ

		研究室NOWへ
		梶島研究室TOP

第四章
観光資源としての秩父札所めぐりの可能性

手塚雪香

	1.はじめに
＊	2.秩父札所の概要
	3.ヒアリング調査調査
	4.秩父札所めぐりの体験
	5.秩父巡礼の動向
	6.調査結果からの考察

２、秩父札所の概要

２－１．秩父札所の起こり

　日本での巡礼の起こりは、平安時代末期に機内を中心として起こった観音巡礼がその始まりであるといわれる。これが後に「西国三十三ヶ所巡礼」と呼ばれ、庶民の人気になる。鎌倉期には坂東巡礼が、室町期には秩父巡礼が西国巡礼を移植する形で起こった。これらの巡礼は観音菩薩像を本尊として祀る寺院を巡るもので、観世音菩薩の功徳、救済を願っての観音巡礼である。
　秩父札所の開創には諸説あるが、無名の修験者や廻国僧によって創設されたものと考えられる。
　秩父札所がいつ成立したのかについては、第32番法性寺に残る『長享番付』に記述されている記録から、長享２年(1488)には既に完成していたことがわかる。しかし当時の秩父札所は現在の三十四ヶ所に対し三十三ヶ所で形成され、しかも順番は現行と大きく異なっている。
　もともと観音霊場は、経典『観世音菩薩普門品』に依拠し、観世音菩薩が三十三の姿に化身して衆生を済度するということから、「三十三ヶ所」の霊場で形成されてきた。では、いつからなぜ三十四ヶ所に変更されたのか。札所に残る納札や石碑、懸仏などに記された記録から推察すると、永正(1504～1521)の頃までは三十三ヶ所であったが、大永(1521～1528)から天文年間(1532～1555)にかけて三十四ヶ所巡礼が起き始めており、三十四ヶ所が定着するまでは二種類が並存していたと考えられる。
　変更の理由についても諸説あるが、概ね二つの理由が挙げられる。まず一つ目としては、秩父という地方性の脱却を図ったということ。秩父霊場は西国、坂東に比較すると小規模で、単なる一地方霊場の域を出なかった。各地の霊場を修行として廻る習慣には、古来、多度多排による功徳を積む思想があり、「百」という数字は多度を表し、功徳を積む目安でもあった。そこで、秩父霊場の設立に関わったとされる修行僧、廻国僧たちが、観音霊場を「百」にするために、秩父霊場に一ヶ所を増やして三十四ヶ所に改変したという説。もう一つの理由は、秩父札所の内部事情によるというもの。三十三ヶ所時代には選ばれていなかった第２番真福寺は、地元住民から篤く信仰され帰依者も多かったことから、三十三ヶ所札所への編入を強く望んでいた。しかし新たに加入することで離脱しなくてはならない札所が出てしまうことから札所側に反対があり、このような札所内部の紛議を解決する手段として、新たに一ヵ所加え、変則的な三十四ヶ所にしたという説である。
　札所が増えたことに伴っての順路変更は小規模なものであったが、江戸時代になり大幅に変更された。江戸時代、江戸の人々にとっては秩父までは関所もなく、７日間という短期間で済ますことができる手軽な旅であったことから、江戸からの巡礼者が多くなった。それに伴い、江戸から来た場合に廻りやすい順路になったと考えられる。もう一つ考えられる理由としては、坂東の巡礼途中に秩父巡礼を組み込みやすい順路を検討したところ、現在の順路になったという、百観音巡礼を意識した変更説もある。
　江戸時代には大いに繁栄した秩父巡礼であるが、明治期の神仏判然令や修験道の解散令により、修験系札所で荒廃が起こり、急速に衰退していった。明治期、吸収・統合されたり住職が不在の寺は、地域住民の手で細々と護持され、寄付金によって再建されたり修理が行われることで守り続けられてきた。
秩父札所が再び復興し始めるのは、昭和40年代である。昭和41年の総開帳にあわせて、各札所が堂内外の整備に力を注ぎ、これをきっかけに秩父札所の復興が始まった。更に、昭和43年、西武鉄道が秩父まで延伸され交通のアクセスが向上し、多くの巡礼者が訪れるようになる。

２－２．特徴

　（1）西国や坂東は寺格の高い名刹や、大きな伽藍を有した有名寺院で形成されているのに対し、秩父の創設時には地域の観音堂が多く含まれていた。
　（2）秩父巡礼は、西国や坂東巡礼に比べて女性の巡礼者が比較的多かった。経済基盤、体力ともに不安な女性にとって、全行程約100キロ、江戸から片道一泊二日、計７日の日程は負担が比較的小さく、江戸に比較的近い秩父は、関所を通らずに行くことができるという魅力があった。また、女性の通過儀礼として秩父巡礼をするという慣習をもつ地域があったり、江戸時代には多くの堕胎が行われ、その供養として観音霊場をまわったことなどの理由から女性の巡礼者が多かった。
　（3）西国と坂東札所では、三十三ヵ寺が一斉に開帳する慣行はないのに対し、秩父札所では12年に一度、総開帳を行う。これは、江戸時代から受け継がれてきたものである。